【はじめに】
2017年3月、SNSで知り合ったSさんが丹沢で遭難され、残念ながら帰らぬ人となりました。 
改めて、ご冥福をお祈りいたします。 
四十九日を過ぎ、捜索について率先して行動してくださったFさんが警察や地元山岳会に報告書を提出してくださった事もあり、本件については一つの区切りがついたと思っています。 
そこでここに私自身が感じた事を書こうと思います。私の知る範囲においてなるべく正確に記述したつもりではありますが、情報不足や勘違いにより記載内容が事実とは異なる可能性があることをご了承ください。またお立場によって感じ方や考え方が違うと思いますが、ここに書かれているのもひとつの意見・感想として捉えていただければと思います。 
少しでも安全意識の向上や遭難の減少のお役に立てば幸いです。

【遭難事故の概要】 
2017年3月3日(金)入山 単独行 
3日・4日の登山計画は提出されていない。
5日以降は友人に計画書を送信していた。

■3月3日(金) 
4:50 地元を出発
7:33 渋沢駅到着
9:00 秦野駅北口にて朝食
10:30 SNSに最終投稿
※この先の足取りは不明

■3月4日(土)
16:00から丹沢高原山の家でSNSの仲間と宴会予定だったが現れなかった。 

■3月5日以降の予定
丹沢高原の家を起点に塔ノ岳、丹沢山、鍋割山などを歩く予定。 
余裕のある行程を考えていたようです。

5日以降の予定が友人に出されている事から、3日は大倉周辺散策と大倉高原山の家まで荷揚げのみ、4日は大倉高原山の家を起点に周辺散策と宴会準備を予定していたため、登山計画書などが提出されていなかったと考えられます。

【発見現場】
ご遺体は前大沢のF1(一番下流の滝)の下で発見されました。メインザックはF1の上にあったそうです。 
IMG_8601

IMG_8603

※現地を訪れる方は、地図のオレンジ点線を辿って下さい。
1)大倉から風の吊り橋を渡り、戸川林道を北上
2)竜神の泉を過ぎると倉見山荘へ下る分岐が現れるので左手に下っていく
3)倉見山荘前の河原に降りたら、水無川(伏流で水がない)を対岸に渡る。
4)少し下流側に戻った奥まった場所に滝があります。水無川の堰堤の手前です。

<お願い>
・現地はお墓ではなく自然の一部です。お供えなどは置かずに持ち帰りましょう。大好きな美味しいお酒もビンに入ったままでは飲めませんので存分に浴びせてあげてください。
・現地は沢登り前大沢ルートの起点であり、多くの方にとっては楽しい遊びが始まる場所ですので、現地で出会った際にはご配慮下さい。
・谷になっており、上の地盤は脆く落石などが発生しやすい地形なので十分注意してください。

【遭難経路】
ご遺体が発見された後、その場所から遭難ルートを推測し、実際にそのルートをを歩いてみたところ、途中にサブザックが落ちているのを発見しました。以下はそのサブザックを警察に届けた際に状況説明に使った写真に文字を足したものです。
※ピンク色のラインが歩いたと思われるルートになります。

IMG_7250

IMG_7287

IMG_7288

IMG_7289

IMG_7291
※ペットボトルは個人の所有物か不明

IMG_7292

IMG_7294

IMG_7293

サブザックが落ちていたのは水無寮の前を通る道をずっと先へ進んだ場所でした。
大倉を出発し、大倉尾根0番標識(丹沢クリステル前)を右に進みます。水無寮を過ぎてしばらくは舗装路が続き家屋もありますが、その先は未舗装の林道に。更に進むと作業道のような踏み跡になっていき、最後は涸れた前大沢に突き当り踏み跡がなくなります。水無寮の脇から塔ノ岳へ登るルートがあるので少数の方に利用はされているものの、その先を登山で利用する人は殆どいないと思われます。
「大倉周辺を散策したい」と言っていた事から、マイナーで静かなこの辺りを散策しにいったのか、もしくは分岐を間違えて奥まで進んでしまったのか、はたまたひと気のない所にテントを張りたかったのか、今となっては理由は分かりませんが、なんらかの理由でこの道に入り、サブザックを落としてしまったようです。サブザックが落ちていた場所には道を邪魔するように曲がった木が生えていたので、あるいはこの木に大きなメインザックがぶつかり、外付けしていたサブザックを落としてしまったのかもしれません。またその衝撃で谷側に滑落した可能性もあると思います。
ここから滑落した場合、斜面を登り返すのはかなり難しいと思います。実際にロープを使って下降しましたが、斜面は見た目以上に急で地面が脆く崩れやすいものでした。そうなると下るしかありませんが、歩きやすい所を下っていくと前大沢に至ります。前大沢は滝や堰堤が連続しており、ロープなどの装備なしでは登るのも下るのも非常に困難な場所です。恐らく登山道から滑落後、沢に行きつき、ザックを降ろして滝を下る時に再度滑落したのではないかと思われます。



ここから先は、本件を通じて私自身が感じた事などを書きたいと思います。 
⇒は、自分が今後気を付けたいと思った事項です 

【登山届の重要性について】
今回捜索が難しかった原因に3日と4日の登山届が出ていなかった事が挙げられます。おそらく3日は大倉周辺と大倉高原山の家まで、4日もその周辺とテント場での宴会程度と考えて提出しなかったのだと思いますが、この事が捜索の大きな障害となってしまいます。渋沢駅で降りたあとに秦野駅に戻り、そこでSNSの発信が途絶えたため、その後の足取りが予測しにくくなってしまいました。特に入山口が確定できないのが非常に困りました。予定通り渋沢に戻り大倉から入山したのか、予定変更のために秦野駅に移動してヤビツ峠に向かったのか、もしくは入山せず交通事故や強盗にあったのか、体調不良で登山を辞めてしまったのか、様々な可能性があったため捜索の範囲を絞れません。また確実に遭難していると警察に分かってもらうためにも必要でした。今回の件で登山届が非常に大きな威力を発揮する事を改めて知りました。
また代表して警察との対応をしてくださった方のお言葉ですが「家族の要請じゃないと警察は動いてくれません!」とのことです。ですから家族に文字でしっかり工程を残すことは非常に重要です。
⇒登山届を必ず出す。出ていないと警察が動けない。
⇒家族、友人、会社など、実際に動いてくれる人にも出す。口頭はダメ。より近い人からの通報は強く働く。

【一般人による捜索について】
二重遭難の危険性があるため、一般人が独自に捜索を行うべきかどうかはとても難しい問題です。
私は単独で廃道ルートと遺跡周辺を2回捜索しました。事故でかえって迷惑を掛けぬよう、安全に留意しながら普段の山行として回りましたが、谷筋を見るためには雪の残る岩場をロープで下降やトラバースせねばならず、自分でも気付かぬうちに危険な捜索を行っていたと反省しています。このような個所を捜索しに行ったのは「SNSで遭難者に廃道を勧めた人がいた」「SNSで本人が遺跡を見に行こうと言っていた」という理由からです。手がかりが少ないと僅かな理由にすがりたくなるもので、それがもっと危険度の高い所でも理由があれば足を踏み入れたくなる事と思います。
このような事から、やはり一般人は捜索を行うべきではないと感じました。もちろん何もしない方が良いという事ではなく、より安全で効果の高い方法を選ぶべきでした。例えば駅周辺や小屋への聞き込み、駅前や登山道でのビラ配り、机上での遭難に至りそうなルートの選定などです。今回も機転を聞かせてこのような活動をされた方がいたため足取りが少しずつ解明されましたが、もっと早い段階からここに人手を割くべきだったと思います。
これらを十分に行ったうえで、集まった情報から確度の高い捜索をグループで安全性を確保した上で行うなどの慎重さが求められると感じました。今回はSNS上で集まった知人同士がSNS上で捜索について話を進めましたが、そこにはリーダーや責任者が存在しないため、話にまとまりがなく効率的な活動ができなかったと感じています。
⇒二重遭難んを防ぐためにも安易な捜索を行わない、勧めない、頼まない
⇒山を捜索する前に、より効率的・効果的な方法を検討する
⇒組織として活動する場合は、立場や役割を明確にする
map001
捜索時に作成した、渋沢からの徒歩を想定した経路と入山口

【SNS時代の登山】
3月4日は土曜日のため、SNS仲間が集まってテント場でオフ会を行う予定だったようで、Sさんは3日に入山しているため、参加者は4日にテント場に行けばすでにその場にいると思っていたようです。しかしテントはなく、宴会開始の16時になっても姿を見せませんでした。参加者はおかしいと思いながらも1週間の滞在予定と聞いていたので「予定変更かもしれない」という可能性も捨てきれずにいたようです。またSNSでのつながりが中心なので、姿を見せないことですぐに遭難の通報をすべきかどうかの判断も難しかったようです。
オフ会で参加者・参加予定者をきっちり管理するのはとても難しいですし、自由参加の気軽さも損なわれてしまいます。現地集合で気軽に参加できる会を安全に実施するには、参加者各個人が高い意識をもって安全対策に取り組む必要があると感じました。
⇒参加者は、参加・不参加を明確にしておく
⇒参加者は、各自で登山届の提出や保険の加入をしておく
⇒企画者は、登山届の提出や予定変更時の報告が参加条件だと伝えておく

【情報の取扱いについて】
SNSで異変を感じた人が、何が起きているのか知りたくなるのは当然です。余計な不安や心配を避けるためにも正確な情報を適切なタイミングで公開するのは重要だと感じました。ご家族の意向や警察の捜査状況に応じて隠す必要があれば漏れないよう徹底すべきですし、公開して多くの情報を集めるのであれば随時情報を公開していくべきだと感じました。
情報発信に際しては、決められた代表者を通して行うべきで、個々が発信すべきではありません。感情などに左右されず、情報の価値と発信のタイミングを判断して速やかに公開することで、情報取得のきっかけになる可能性が高まるのではないかと思いました。
また受け手側も再発防止のための総括などは焦らず後回しにして、まずは遭難者の発見、また関係者の心のケアなどを考慮して対応すべきではないかと感じました。
⇒遭難者の発見のみを目的とした活動に徹する。
⇒遭難者の発見など、確定した情報は速やかに公表する。

短い間ではありましたが、私が捜索で山を歩いたり、SNSの方々と捜索に関して話す中で感じた事を記載しました。私は故人と面識はなく、SNSを通じた交流も僅かではありましたが、何とか無事に見つかればと思って微力ながら協力させていただいただけに残念でなりません。
この悲しみが、これから山を歩く人の安全に繋がればと思います。